映画『ラ・ラ・ランド』
あらすじ・ネタバレ・感想
夢を追う人々が集まる街、ロサンゼルス。
そこは、星の数ほどの希望と、それと同じ数の挫折が生まれる場所。
この街で出会った、女優志望のミアと、ジャズピアニストのセブ。
二人の恋の行方を、往年の名作ミュージカルへの愛とオマージュたっぷりに描いたのが、デイミアン・チャゼル監督の傑作『ラ・ラ・ランド』だ。
第89回アカデミー賞で史上最多タイの13部門にノミネートされ、監督賞・主演女優賞を含む6部門を制した本作は、単なるハッピーエンドのラブストーリーではない。
それは、夢を追うことの輝きと、そのために払わなければならない代償、そして、人生の岐路で「選ばなかったもう一つの未来」を、切なくも優しく描き出す、現代の大人たちのための物語である。
本記事では、この観る者の心を躍らせ、そして静かな涙で満たす珠玉の一本を、あらすじからキャスト紹介、そして物語の核心に迫る完全ネタバレ解説まで掘り下げていく。
1.映画『ラ・ラ・ランド』の作品情報
| タイトル | ラ・ラ・ランド(La La Land) |
|---|---|
| 監督 | デミアン・チャゼル |
| 公開年 | 2016年(米国) |
| キャスト | ライアン・ゴズリング, エマ・ストーン, ジョン・レジェンド, ローズマリー・デウィット, J・K・シモンズ 他 |
| ジャンル | 恋愛,ミュージカル |
2.映画『ラ・ラ・ランド』のあらすじ
物語の舞台は、夢追い人たちの街、ロサンゼルス(LA)。
女優を目指してオーディションに明け暮れるも、失敗ばかりの毎日を送るミア。
彼女は、カフェで働きながら、いつかスクリーンに映る日を夢見ていた。
一方、伝統的なジャズをこよなく愛し、いつか自分の店を持つことを夢見るピアニスト、セバスチャン(セブ)。
しかし、そのこだわりが災いし、レストランの演奏係をクビになるなど、彼の現実は厳しいものだった。
そんな二人は、最悪の出会いを繰り返しながらも、互いの夢への情熱に惹かれ合い、やがて恋に落ちる。
LAの美しい夜景の下でタップダンスを踊り、プラネタリウムでワルツを踊る。
二人の恋は、まるで魔法のような音楽と共に、輝かしい季節を駆け抜けていく。
しかし、夢を追いかければ追いかけるほど、二人の間には厳しい現実が立ちはだかる。
果たして、彼らは自らの夢と、互いの愛の両方を手に入れることができるのか。
LAの四季を背景に、二人の恋の物語が、色鮮やかな歌とダンスで綴られていく。
3.主要な登場人物とキャスト
- ミア・ドーラン(演:エマ・ストーン)
主人公。
カフェ店員として働きながら、女優になる夢を追いかける女性。
挫折を繰り返しながらも、セブとの出会いをきっかけに、自らの手で道を切り拓こうと決意する。 - セバスチャン・ワイルダー(演:ライアン・ゴズリング)
もう一人の主人公。
頑固なまでに純粋なジャズを愛し、自分の店を持つことを夢見るピアニスト。
愛するミアのために、一度は夢を妥協しようとするが…。
4.映画『ラ・ラ・ランド』のネタバレ
※ここからは映画の核心に触れるネタバレを含みます。
『ラ・ラ・ランド』の物語は、華やかなミュージカルシーンの裏で、夢と現実の残酷な二者択一を突きつける。
そして、その結末は映画史に残る、最も切なく、最も美しいものだった。
出会いと魔法の季節
物語の前半は、二人の恋が魔法のように輝く季節だ。
「A Lovely Night」を歌いながらLAの夜景をバックに踊るタップダンス、グリフィス天文台のプラネタリウムで無重力になって踊るワルツ。
これらのシーンは、恋に落ちた瞬間の高揚感を、ミュージカルという形式で完璧に表現している。
彼らは互いの夢を応援し、互いの存在がインスピレーションとなって、それぞれの道を前進させていく。
夢と現実の不協和音
しかし、現実は甘くない。
ミアとの将来を考えたセブは、自身の信条を曲げ、友人のキース(演:ジョン・レジェンド)が率いる売れ線のポップ・ジャズバンド「ザ・メッセンジャーズ」に加入する。
バンドは成功し、彼は安定した収入を得るが、その音楽は彼の愛したジャズではなかった。
一方、ミアはセブの勧めで一人芝居の脚本を書き上げ、自ら舞台に立つ。
しかし、観客はまばらで、聞こえてきたのは酷評ばかり。
さらに、バンドのフォトシュートのために、セブはその大事な舞台に駆けつけることさえできなかった。
夢のために妥協した男と、夢に破れた女。
二人の歯車は、少しずつ狂い始める。
選ばなかった未来:エピローグが描く本当のハッピーエンド
物語は、ミアが故郷に帰ろうとした矢先、彼女の芝居を観ていたキャスティングディレクターから、パリで撮影する映画の主役オーディションの連絡が入ったことで転機を迎える。
セブに背中を押され、オーディションに挑んだミアは見事合格。
二人は、互いの夢が叶うまで、一旦離れることを決意する。
「ずっと愛してる」と。
そして、5年後。
ミアは世界的な大女優となり、別の男性と結婚し、一人の子供にも恵まれていた。
ある夜、彼女は夫と偶然、一軒のジャズクラブに入る。
その店の名前は「Seb's」。
セブもまた、夢を叶えていたのだ。
ステージ上のセブは、客席にいるミアに気づく。
彼は、二人の思い出のテーマ曲「Mia & Sebastian's Theme」を弾き始める。
その瞬間から、この映画の真骨頂である、約10分間にわたる壮大なエピローグが始まる。
それは、もしもあの時、二人の歯車が狂わなかったら、という「選ばなかった未来」の物語だ。
セブがバンドに入らず、ミアの芝居が成功し、二人がパリで結ばれ、結婚し、子供を育てる。
その幸福な人生のモンタージュが、美しい音楽と共に描き出される。
夢から覚め、現実の店内に戻る。
演奏を終えたセブと、客席のミア。
二人は、一瞬だけ視線を交わし、そして、静かに、優しく微笑み合う。
それは後悔の笑みではない。
互いの夢が叶ったことを祝福し、今の自分があるのは、あの輝かしい季節を共に過ごしたあなたのおかげだと感謝する、最高の笑顔だった。
彼らは、恋人として結ばれる運命ではなかった。
しかし、互いの人生において、最も重要な触媒(カタリスト)となった。
夢を叶えるために、恋を諦めた。
しかし、その恋があったからこそ、夢を叶えられた。
これこそが、本作が描いた、ビタースイートで、しかし最高に誠実なハッピーエンドなのである。
5.映画『ラ・ラ・ランド』の補足情報
監督の執念が生んだ企画
デミアン・チャゼル監督は、ハーバード大学在学中に本作の脚本を執筆。
しかし、スタジオはリスクの高いオリジナル・ミュージカルに資金を出すことを渋り、企画は長年塩漬けになっていた。
彼は「まず実力を証明するため」に、低予算で撮れる映画として『セッション(Whiplash)』を監督。
同作がアカデミー賞を受賞するなど大成功を収めたことで、ついに本作を監督するチャンスを掴んだ。
徹底した長回し撮影と本物のピアノ演奏
本作のミュージカルシーンは、編集の少ない「長回し」で撮影されているのが特徴だ。
特に、冒頭の高速道路でダンサーたちが踊る「Another Day of Sun」のシーンは、LAのハイウェイを実際に封鎖し、ワンカットに見えるよう、3ヶ月にわたるリハーサルの末に撮影された。
また、ライアン・ゴズリングは、全てのピアノ演奏を自身で行うため、1日4時間、週6日の猛練習を3ヶ月間続けたという。
アカデミー賞での歴史的ハプニング
第89回アカデミー賞授賞式で、本作は作品賞を受賞した、と一度アナウンスされた。
キャスト・スタッフが壇上で喜びのスピーチを始めたその時、司会者が「間違いでした。
本当の受賞作は『ムーンライト』です」と訂正するという、前代未聞のハプニングが起きた。
これは、アカデミー賞史に残る、最も有名な事件の一つとして語り継がれている。
往年の名作ミュージカルへのオマージュ
本作には、チャゼル監督が愛するクラシック映画へのオマージュが満ち溢れている。
特に、切ない結末や色鮮やかな映像はフランス映画『シェルブールの雨傘』から、街灯の下で踊るシーンは『雨に唄えば』から、それぞれ強い影響を受けている。
6.映画『ラ・ラ・ランド』の感想
夢を追ったことがある、すべての人へ贈る鎮魂歌
『ラ・ラ・ランド』は、観るタイミングによって、全く違う感想を抱かせる映画だ。
夢の只中にいる時に観れば、ミアとセブの姿に自分を重ね、胸を高鳴らせるだろう。
そして、いくつかの夢や恋を諦めた後に観れば、そのあまりにも切なく、美しい結末に、静かに涙することになるかもしれない。
この映画がただの懐古趣味なミュージカルで終わらないのは、その結末が、おとぎ話ではなく「現実」を描いているからだ。
人生は選択の連続であり、何かを得るためには、何かを失わなければならない時がある。
本作は、「夢」と「愛」という、人生で最も輝かしい二つのものを天秤にかけ、その残酷さと尊さを見事に描き切った。
しかし、不思議と鑑賞後の心は温かかった。
それは、エピローグで示される「選ばなかった未来」が、決して「失敗した未来」として描かれていないからだろう。
二人が共に歩む人生もまた、最高に幸せなものだった。
どちらが正解というわけではない。
ただ、違う選択があっただけ。
そして、今の自分を形成してくれた、あの輝かしい日々への感謝。
この成熟した視点こそが、本作を単なるラブストーリーではない、人生の物語へと昇華させている。
まとめ
本記事では、映画『ラ・ラ・ランド』を、あらすじからネタバレ、トリビアに至るまで徹底的に解説してきた。
本作は、ミュージカル映画の入門編としても、映画を愛する玄人を唸らせる作品としても、完璧な一本だ。
この映画は、我々の心の中にある「選ばなかったもう一つの人生」に、優しく触れてくる。
見終わった後、あなたは過去の恋を、叶わなかった夢を、きっと少しだけ優しい気持ちで思い出せるはずだ。