映画『マイ・インターン』
あらすじ・ネタバレ・感想
「経験は、決して古びない」
目まぐるしく変化する現代社会。
最新のテクノロジーと、若々しい感性がもてはやされる一方で、人生の豊かな経験が持つ本当の価値を、私たちは時々忘れてしまう。
映画『マイ・インターン』は、そんな私たちに、世代を超えた友情の美しさと、いくつになっても人は輝けるという希望を、優しく教えてくれる物語だ。
ファッション通販サイトを経営する若き女性CEOの下に、シニア・インターンとしてやって来た70歳の紳士ベン。
最初は噛み合わなかった二人が、やがて互いにとってかけがえのない存在になっていく。
本記事では、この観る者すべての心を温かい幸福感で満たす傑作を、あらすじからキャスト紹介、そして物語の核心に迫る完全ネタバレ解説まで、深く、掘り下げていく。
1.映画『マイ・インターン』の作品情報
| タイトル | マイ・インターン(The Intern) |
|---|---|
| 監督 | ナンシー・マイヤーズ |
| 公開年 | 2015年 |
| キャスト | ロバート・デ・ニーロ,アン・ハサウェイ 他 |
| ジャンル | コメディ,ドラマ |
2.映画『マイ・インターン』のあらすじ
舞台は、現代のニューヨーク・ブルックリン。
妻に先立たれ、40年間勤め上げた電話帳の会社も引退した70歳のベン・ウィテカー。
悠々自適な引退生活も、旅行や趣味に没頭するだけでは、彼の心の空白を埋めることはできなかった。
「まだ自分にはやれることがあるはずだ」。
そう感じていた彼は、ある日、急成長中のファッション通販サイト「ABOUT
THE FIT」が募集する「シニア・インターン」の求人広告を見つける。
一方、その会社の創業者でありCEOのジュールズ・オーティンは、まさに時代の寵児。
わずか1年半で社員220人を抱える大企業へと会社を成長させた、エネルギッシュな若き女性だ。
しかし、その華やかな成功の裏で、彼女は家庭と仕事の両立に悩み、押し寄せるプレッシャーに押しつぶされそうになっていた。
そんな彼女の下に、シニア・インターンとして配属されたベン。
最初は「高齢者のお守りなんて…」とベンを敬遠していたジュールズだったが、彼の誠実な人柄、豊かな人生経験からくる的確なアドバイス、そして何よりも彼女を静かに見守るその温かい眼差しに、次第に心を開いていく。
デジタルネイティブ世代の若者たちに囲まれながら、アナログな紳士ベンが巻き起こす、心温まる奇跡の物語が始まる。
3.主要な登場人物とキャスト
- ベン・ウィテカー(演:ロバート・デ・ニーロ)
主人公。
誠実で、思慮深く、ユーモアのセンスも抜群な70歳のシニア・インターン。
彼の持つクラシックな紳士の作法と、豊かな人生経験が、現代的な職場の問題を次々と解決していく。
- ジュールズ・オーティン(演:アン・ハサウェイ)
もう一人の主人公。
ファッション通販サイトの若き創業者兼CEO。
仕事への情熱と完璧主義ゆえに、常に全力疾走で、心に余裕を失っている。
- フィオナ(演:レネ・ルッソ)
社内の専属マッサージ師。
ベンと心を通わせ、ロマンスへと発展していく。
- マット(演:アンダーズ・ホーム)
ジュールズの夫。
妻の夢を支えるため、自らのキャリアを捨てて専業主夫となった。
4.映画『マイ・インターン』のネタバレ
※ここからは映画の核心に触れるネタバレを含みます。
ベンとジュールズの関係は、単なる上司と部下を超え、やがて互いの人生を支える、かけがえのない友情へと発展していく。
居場所を見つけるまで
当初、多忙なジュールズはベンに全く仕事を振らず、彼は時間を持て余す。
しかし、ベンは決して腐らない。
散らかったデスクを片付け、他の社員の仕事を手伝い、的確なアドバイスを送る。
特に、
同僚の若い男性社員たちの恋愛相談に乗ったり、スーツの着こなしを教えたりする場面は、彼が世代を超えたメンターとなっていく過程を象徴している。
彼の誠実な働きぶりは、
ジュールズ以外の社員たちの心を瞬く間につかんでいった。
CEOとインターン、そして“親友”へ
ジュールズがベンの価値を本当に理解するきっかけは、彼が彼女の運転手を務めるようになってからだ。
車中での何気ない会話の中で、彼女は初めて自分の弱さや悩みを吐露することができるようになる。
ベンは、決して彼女を評価したり、否定したりしない。
ただ、静かに耳を傾け、自らの経験に基づいた思慮深い言葉をかける。
そして、二人の絆を決定的にしたのが、ジュール-ズが誤って母親に送ってしまった悪口メールを削除するため、ベンが若い同僚たちとチームを組んで母親の家に忍び込む、「ミニ強盗」シーンだ。
このコミカルな事件を通して、ベンはジュールズにとって、ただのインターンではなく、どんな秘密も打ち明けられる“親友”となった。
最大の危機:仕事と家庭の天秤
物語は二つの大きな危機を迎える。
一つは、会社の急成長に経営が追い付いていないと判断した投資家たちが、ジュールズに外部からベテランのCEOを雇うよう圧力をかけてくること。
もう一つは、ジュールズの多忙さゆえに、家庭内で孤独を深めていた夫マットが、浮気をしてしまうことだ。
ベンは偶然マットの浮気を知ってしまうが、それをジュールズに告げるべきか深く悩む。
ベンの言葉と、ジュールズの決断
出張先のホテルで、ジュールズはついにベンに全てを打ち明ける。
夫の浮気を知っていること、そして、夫との時間を作るために、会社のために雇ったCEOに自分のポストを譲ることを考えている、と。
それを聞いたベンの言葉こそが、本作のクライマックスだ。
「君の会社だ。
君が始めた夢だろう?それを誰にも譲ってはいけない」。
彼は、ジュールズがどれほどの情熱と努力でこの会社を築き上げてきたかを、
誰よりも近くで見てきた。
彼の力強い励ましの言葉は、ジュールズが自分自身の価値と夢を再確認し、CEOを雇うという決断を撤回する勇気を与える。
ラストシーン、ジュールズは公園で太極拳をするベンの隣に静かに座り、自らもその動きを真似る。
それは、彼女がようやく心の平穏とバランスを取り戻し、二人の間に穏やかで対等な友情が確立されたことを示す、
美しい結末だった。
5.映画『マイ・インターン』の補足情報
ナンシー・マイヤーズ監督の世界観
本作の監督ナンシー・マイヤーズは、登場人物のライフスタイルを洗練されたインテリアやファッションで表現することで知られている。
『マイ・インターン』の、明るく開放的で、かつ機能的なオフィスのデザインは、
まさに彼女の真骨頂。
観るだけで心が豊かになるような、美しい世界観が広がっている。
ファッション業界のリアルな描写
ジュールズが経営する「ABOUT THEFIT」は、実在するファッション通販サイト「Net-a-Porter」の創業者からインスピレーションを得ていると言われている。
顧客サービスのために自ら梱包作業を手伝ったり、商品の魅せ方に徹底的にこだわったりするジュールズの姿は、現代の成功した起業家のリアルな姿を反映している。
ロバート・デ・ニーロの新たな魅力
マフィアやアウトローといった強面の役柄で知られるロバート・デ・ニーロだが、本作ではそのイメージを覆す、心優しく穏やかな紳士を演じきった。
彼の持つチャーミングな笑顔と、落ち着いた佇まいは、
ベンというキャラクターに完璧な説得力を与えている。
世代を超えて響くメッセージ
本作は、アメリカの退職者協会(AARP)とタイアップするなど、シニア世代の社会参加を応援するというメッセージも持っている。
経験豊富なシニア世代が、若い世代をサポートし、
共に成長していくという物語は、多くの観客にポジティブな感動を与えた。
6.映画『マイ・インターン』の感想
心温まる人生の応援歌
『マイ・インターン』は、観終わった後、まるで優しいハグをされたかのような、温かい幸福感に包まれる映画だ。
そこには、派手なアクションも、衝撃的なドンデン返しもない。
しかし、人間が本来持っているべき優しさ、誠実さ、そして敬意といった、当たり前で、しかし最も大切なものが、丁寧に、そして美しく描かれている。
この映画の素晴らしい点は、ベンとジュールズの関係が、決して恋愛には発展しないことだ。
二人の間に流れるのは、恋愛を超えた、親子のような、あるいは最高の親友のような、深く、静かな絆である。
ベンは決して前に出過ぎない。
彼は自らの経験をひけらかすのではなく、ジュールズが自分の力で答えを見つけられるよう、そっと背中を押すだけ。
この絶妙な距離感が、二人の関係を何よりも尊いものにしている。
また、本作は現代社会で働く多くの人々、特に女性が抱える問題にも、優しい光を当てている。
仕事と家庭の両立、成功へのプレッシャー、そして性別による役割分担。
これらの複雑な問題に対し、この映画は「こうすべきだ」と説教するのではなく、「あなたには、あなたを支えてくれる人がいる」と、温かく語りかけてくれる。
何よりも、ロバート・デ・ニーロ演じるベンの存在そのものが、この映画のメッセージだ。
常にハンカチを持ち歩き、人の話を真摯に聞き、誰に対しても敬意を払う。
彼の紳士的な佇まいは、効率ばかりが重視される現代社会で私たちが忘れかけている、本当に大切なものが何かを思い出させてくれる。
まとめ
本記事では、映画『マイ・インターン』を、あらすじからネタバレ、トリビアに至るまで徹底的に解説してきた。
本作は、世代や性別を問わず、働くすべての人、そして人生の新たな一歩を踏み出そうとしているすべての人に観てほしい、最高の人生の応援歌だ。
忙しい毎日の中で、少しだけ立ち止まりたくなった時。
この映画は、あなたの心をそっと撫でてくれるだろう。
明日からもう少しだけ、誰かに親切にしてみよう。
そんな温かい気持ちにさせてくれる、珠玉の一本である。