映画『ジョニー・イングリッシュ』
あらすじ・ネタバレ・感想


世界を救うのは、屈強な肉体と明晰な頭脳を兼ね備えた、選ばれしエリートスパイ。

――そんな常識は、この男の前では通用しない。

映画『ジョニー・イングリッシュ』は、『Mr.ビーン』で世界中を笑いの渦に巻き込んだコメディ界の至宝、ローワン・アトキンソンが贈るスパイ・コメディの金字塔だ。

洗練されたスパイ映画の「お約束」をことごとく破壊し、予測不能なドジとありえない幸運だけで絶体絶命の危機(主に自作)を乗り越えていく。

本記事では、この愛すべきお馬鹿スパイの伝説の始まりである第1作目『ジョニー・イングリッシュ』の魅力を、あらすじからキャスト紹介、そしてネタバレ解説まで、徹底的に掘り下げていく。

スパイ映画は好きだけど、たまには肩の力を抜いて笑いたい。

そんなあなたにぴったりの一本だ。

1.映画『ジョニー・イングリッシュ』の作品情報


映画『ジョニー・イングリッシュ』のポスター

画像引用元: IMDb

タイトル ジョニー・イングリッシュ (Johny English)
監督 ピーター・ハウイット
公開年 2003年
キャスト ローワン・アトキンソン, ナタリー・インブルーリア, ベン・ミラー , ジョン・マルコヴィッチ 他
ジャンル コメディ

2.映画『ジョニー・イングリッシュ』のあらすじ


舞台は、かの有名な英国諜報部MI7。

ジョニー・イングリッシュはエージェントを夢見る事務員だったが、ある日、イングリッシュのミスでエージェント1号が死んでしまう。

さらにエージェント1号の葬儀に集まった全トップエージェントがイングリッシュの警備不備により死んでしまう。

英国に残されたスパイは、ただ一人。

諜報員に憧れるだけの冴えない内勤職員、ジョニー・イングリッシュ。

そんな中、ロンドン塔で厳重に保管されていたはずのクラウン・ジュエルが何者かに盗まれてしまう。

英国最大の危機に、最後の希望(という名の壮大な不安)として白羽の矢が立ったのは、もちろんイングリッシュだった。

彼は有能な相棒ボフを従え、早速捜査を開始。

事件の裏にちらつくのは、フランス人の大富豪パスカル・ソヴァージュの影。

果たして、イングリッシュは国家の威信をかけて、無事に王冠を取り戻すことができるのか。

彼の行く手には、想像を絶する困難と、それ以上に想像を絶する大失敗が待ち受けていた。

3.主要な登場人物とキャスト


  • ジョニー・イングリッシュ役:ローワン・アトキンソン

    本作の主人公。

    自信過剰でうぬぼれ屋だが、中身はとんでもないドジ。

    スパイとしての能力は皆無に等しいが、なぜか運だけで切り抜けていく。

    演じるのは、もはや説明不要のコメディ俳優ローワン・アトキンソン。

    『Mr.ビーン』で見せた表情や身体の動きだけで笑わせる「フィジカルコメディ」の才能が、本作でも遺憾なく発揮されている。

  • ボフ役:ベン・ミラー

    イングリッシュの相棒を務める、真面目で極めて有能なエージェント。

    無能な上司イングリッシュの数々の失態を冷静にフォローし、陰ながら事件解決に導く苦労人。

  • ローナ・キャンベル役:ナタリー・インブルーリア

    事件の捜査中にイングリッシュが出会う、ミステリアスな美女。

    彼の行く先々に現れ、彼を助けるのか陥れるのか、その目的は謎に包まれている。

  • パスカル・ソヴァージュ役:ジョン・マルコヴィッチ

    フランス人の実業家で、王冠の修復を手掛ける大富豪。

    英国王室とも繋がりがあるが、その裏では壮大な陰謀を企んでいる本作の悪役。

4.映画『ジョニー・イングリッシュ』のネタバレ

※ここからは映画の核心に触れるネタバレを含みます。

本作の魅力は、イングリッシュが引き起こす数々のトラブルと、それが奇跡的に繋がっていく(?)ドタバタ劇にある。

その真相を紐解いていこう。

ソヴァージュの壮大な(?)野望

悪役パスカル・ソヴァージュの目的は、金儲けや世界征服といったものではなかった。

実は彼は、英国王室の遠い親戚であり、英国王室を乗っ取って自らがイングランド国王になるという、途方もない野望を抱いていたのだ。

その計画とは、①王冠を盗み、②偽のカンタベリー大主教を用意し、③女王を退位させ、④自らが戴冠式を行って王になる、というもの。

この壮大かつどこか間抜けな計画が、物語の縦軸となる。

イングリッシュの輝かしい失敗録

ソヴァージュの計画を阻止しようとするイングリッシュだが、彼の行動は常に裏目に出る。

劇中で彼がやらかした主な失態は以下の通り。

・全エージェント殉職事件:
そもそも事件の発端は、イングリッシュが潜水艦のハッチの暗唱番号を間違えたことで、エージェント1が死んでしまい、さらには警備不備によってトップエージェントたちを爆死させてしまったことである。

・寿司屋ネクタイ巻き込み事件:
ローナを追って入った寿司屋で、ネクタイが回転寿司のレールに引っかかってしまい、あわや大惨事。

・霊柩車誤認事件:
犯人の霊柩車を追跡中、全く同じ車種の霊柩車を運転していた一般人を犯人と誤認。

墓地で延々と葬儀に参加した人たちを脅迫するも、当然無関係だった。

・病院での自爆:
潜入した病院で、衛兵を眠らせようとした麻酔針の先端を触ってしまい、自分に命中。

麻酔が効き始め、あっけなく戦線離脱。

・衝撃映像流出事件:
ソヴァージュの悪事を見せようとするも、誤って自分がバスタブで踊っている映像を大画面に映し出してしまう。

これらの失敗は枚挙にいとまがないが、不思議と最悪の事態だけは回避していくのがイングリッシュ・クオリティである。

まさかの王位戴冠と事件の結末

クライマックスは、ソヴァージュの戴冠式。

潜入したイングリッシュは、(イングリッシュが偽者だと思っている)カンタベリー大主教の正体を暴こうとするも、本物の大主教のズボンを引きずり下ろし、全世界にその臀部を晒してしまう。

万事休すの中、彼はソヴァージュから王冠を奪い、逃げ回る。

ソヴァージュの悪事を録画したDVDを再生しようとするが、間違って流れたのはイングリッシュがバスルームで熱唱するプライベート映像。

会場が大混乱に陥る中、ソヴァージュが銃を取り出しイングリッシュを銃撃するがイングリッシュが掴んでいたケーブルが切れて、偶然にも王冠がイングリッシュの頭上に落下。

なんと、彼がイングランド王として宣誓されてしまうのだ。

王となったイングリッシュは、即座にソヴァージュの逮捕を命令。

その後、女王に王位を返還し、ナイトの爵位を授与され、一応のハッピーエンドを迎える。

結局、彼の活躍はほとんどが偶然の産物であり、事件を本当に解決に導いたのは、実はインターポールの敏腕エージェントだったローナ・キャンベルと、常に的確なサポートを続けた相棒のボフだったのである。

5.映画『ジョニー・イングリッシュ』の補足情報

原点はクレジットカードのCM

ジョニー・イングリッシュというキャラクターの原型は、1990年代にイギリスで放送されていた「バークレイカード」というクレジットカードのCMに登場する「リチャード・レイサム」というスパイである。

このCMでもローワン・アトキンソンがドジなスパイを演じており、相棒役も本作のボフとは違う俳優だが存在した。

このCMの人気が、映画化の企画へと繋がったのだ。

脚本は本家『007』のコンビ

驚くべきことに、本作の脚本家の一員として、本家『007』シリーズを手掛けるニール・パーヴィスとロバート・ウェイドが参加している。

彼らは『007/ワールド・イズ・ノット・イナフ』以降、『スカイフォール』や『ノー・タイム・トゥ・ダイ』まで多くのボンド映画の脚本を担当してきた。

本家がスパイ映画のパロディを書くという、非常に贅沢でユニークな製作体制だったのである。

愛車はもちろんアストンマーチン

ジェームズ・ボンドの代名詞とも言えるボンドカー。

本作でイングリッシュが乗る車も、もちろんアストンマーチン(DB7 ヴァンテージ)だ。

ただし、彼が乗ると、射出座席が暴発したりと、まともな活躍はしない。

この辺りも完璧な『007』へのオマージュとなっている。

音楽もボンド風?

本作のテーマ曲「A Man for All Seasons」を歌っているのはロビー・ウィリアムズ。(彼のヒット曲「Millennium」は「007」の曲をサンプリングした。)

さらに、劇中音楽の一部を演奏しているのは、弦楽四重奏グループの「Bond(ボンド)」である。

どこまでも「ボンド」にこだわったキャスティングだ。

6.映画『ジョニー・イングリッシュ』の感想

感想:ベタこそ最強!ローワン・アトキンソンの真骨頂

『ジョニー・イングリッシュ』は、映画史に残る傑作かと問われれば、即答はできないかもしれない。

しかし、「腹を抱えて笑えるコメディの傑作か?」と問われれば、間違いなく「イエス」だ。

本作の魅力は、ローワン・アトキンソンの天才的なフィジカルコメディに尽きる。

セリフに頼らず、絶妙な表情の変化や、計算され尽くした身体の動きだけで観客を爆笑させる彼の芸は、まさに職人技だ。

ただ、その自信満々な態度からの壮大な失敗の連続に、人によっては共感性羞恥で「見てられない」感情になってしまうかもしれない点は、注意が必要かもしれない。

しかし、そのハラハラ感すらも笑いに変えてしまうのが彼の凄いところ。

身体表現だけでなく、随所に光る英国流のブラックユーモアに満ちたセリフ回しも最高だ。

特に、寿司屋で乾杯の台詞として放つ「君の娘さんたちに、小さいち○ち○がついて生まれますように」という珍妙すぎる呪いの言葉は、子供じみた悪態と独特のセンスが融合した名シーンで、面白すぎるとしか言いようがない。

『Mr.ビーン』で世界中の人々を虜にした才能が、スパイという設定とキレのある脚本を得て、よりダイナミックに発揮されているのだ。

また、ジェームズ・ボンドのようなクールで完璧なスパイ像への、完璧なアンチテーゼとしての構造も秀逸だ。

秘密兵器をまともに使えず、美女にいいところを見せようとして失敗し、シリアスな場面で必ずとんでもない失態を犯す。

スパイ映画の「あるある」を知っていればいるほど、その裏切り方が可笑しくてたまらない。

そして、そのドタバタ劇を支える相棒ボフの存在も大きい。

イングリッシュの奇行に一切動じず、冷静沈着に問題を処理していく彼の有能さが、イングリッシュの無能さを際立たせ、最高の笑いのコンビネーションを生み出している。

複雑な伏線や深いテーマはここにはない。

あるのは、ただ純粋な笑いだけ。

疲れた頭を空っぽにして、何も考えずに楽しめる。

それこそが、本作の最大の価値であり、時代を超えて愛される理由なのだろう。

まとめ

本記事では、映画『ジョニー・イングリッシュ』を、あらすじからネタバレ、トリビアに至るまで徹底的に解説してきた。

本作は、緻密なプロットや深い感動を求める観客には向かないかもしれない。しかし、もしあなたが以下のようなタイプであれば、最高の90分間を過ごせることを保証する。

ローワン・アトキンソンや『Mr.ビーン』が好きな人

理屈抜きのドタバタコメディで思い切り笑いたい人

『007』などのスパイ映画が好きで、パロディを楽しめる人

休日に家族や友人と、気軽に観られる映画を探している人

『ジョニー・イングリッシュ』は、英国が生んだ「世界で最も頼りないスパイ」の、輝かしい伝説の始まりである。

彼の活躍(?)をもっと見たいと思ったなら、ぜひ続編の『気休めの報酬』『アナログの逆襲』もチェックしてみてほしい。