劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来
あらすじ・ネタバレ・感想
我々が固唾をのんで待ち続けた、最後の戦いの火蓋が、ついに切られた。
この夏、日本中を再び熱狂の渦に叩き込んだ、劇場版『鬼滅の刃 無限城編 第一章 猗窩座再来』。
終映後、エンドロールが流れる中、劇場を支配していたのは万雷の拍手ではなく、あまりにも重い沈黙と、そこかしこから聞こえる嗚咽だった。
これは、これまでのシリーズとは全く違う。
勝利のカタルシスではない、魂を削る「決着」と、次代へ託す「覚悟」の物語だ。
本記事では、この歴史的作品を、あらすじから登場人物の魂の熱演、そして三つの死闘を軸とした物語の核心まで、劇場で味わった衝撃と感動を込めて、徹底的に解説・レビューする。
1.劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来の作品情報

タイトル | 劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来 |
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監督 | 外崎春雄 |
公開年 | 2025年 |
キャスト | 花江夏樹,鬼頭明里,下野紘,松岡禎丞 他 |
ジャンル | ダークファンタジー,アクション |
2.劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来のあらすじ
刀鍛冶の里での激闘の末、太陽を克服した竈門禰󠄀豆子。
その一報は鬼殺隊にとって最大の希望であったが、それは鬼の始祖・鬼舞辻󠄀無惨の千年の渇望を完成させる最後の鍵でもあった。
来るべき総力戦に備え、隊士たちが「柱稽古」で心身を極限まで鍛え上げる中、その時は訪れる。
鬼殺隊当主・産屋敷邸に、ついに無惨が降臨したのだ。
産屋敷の仕掛けた罠を合図に、集結した柱たちと無惨の戦いが始まるかと思われた瞬間、異形の琵琶の音が鳴り響く。
次の瞬間、鬼殺隊士たちは一人残らず、次元の歪んだ悪夢の要塞「無限城」へと引きずり込まれていた。
仲間と分断され、無限に変化する城内で、隊士たちを待ち受けるのは最強の鬼「上弦」。
鬼殺隊の永きにわたる悲願と、鬼たちの千年続く孤独。
全てが交錯する、終わりなき夜の戦いが、今、始まった。
3.主要な登場人物とキャスト
- 竈門炭治郎(CV:花江夏樹)
主人公。
水柱・冨岡義勇と共に、煉獄杏寿郎の仇である猗窩座と再会。 - 我妻善逸(CV:下野紘)
本作における主人公の一人。
兄弟子でありながら鬼に堕ちた獪岳と対峙。
普段の臆病な姿は消え失せ、怒りと悲しみを秘めた声で、己の過去に決着をつける。 - 胡蝶しのぶ(CV:早見沙織)
蟲柱。
姉の仇・童磨を前に、燃え盛る憎悪を静かな微笑みの下に隠し、命を賭した復讐の舞を披露する。 - 上弦の参・猗窩座(CV:石田彰)
強者との戦いを至上とする武闘派の鬼。
『無限列車編』での煉獄との死闘を経て、炭治郎とは深い因縁を持つ。
本作ではその圧倒的な強さを見せつける一方、人間時代の悲しい過去が明かされ、壮絶な最期を遂げる。 - 上弦の陸・獪岳(CV:細谷佳正)
善逸の兄弟子。
鬼となることで力を渇望したその歪んだ自尊心と、善逸への劣等感が入り混じった小物的な悪意を見事に表現。 - 上弦の弐・童磨(CV:宮野真守)
生命への冒涜を体現したかのような、軽薄で残虐な狂気。
その声色一つで、観客の背筋を凍らせる。
4.劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来のネタバレ
※ここからは映画の核心に触れるネタバレを含みます。
『無限城決戦 第一章』は、三つの壮絶な戦いを同時進行させながら、それぞれに明確な結末と次への布石を用意するという、構成で描かれた。
第一の死闘:【悲壮】胡蝶しのぶ vs 上弦の弐・童磨
本作のもう一つの主役であり、観客を絶望の淵に叩き込んだのが、この復讐劇だ。
姉の仇を前に、しのぶは毒を仕込んだ高速の突きを繰り出す。
しかし、童磨の圧倒的な再生能力と、血を霧状にし、散布する血鬼術の前に、その刃は決定打とならない。
そして、映画は最も残酷な形でその結末を迎える。
渾身の突きも虚しく、しのぶは童磨に捕らえられ、ゆっくりとその身体を吸収されてしまう。
本作は、しのぶが完全に吸収され、絶望に打ちひしがれるカナヲが駆けつけたところで、非情にも幕を閉じる。
童磨はまだ死んでいない。
これは復讐の「完遂」ではなく、次代へ託される「序曲」なのだ。
第二の死闘:【決着】我妻善逸 vs 上弦の陸・獪岳
本作で多くの観客の涙を誘ったうちの1つが、この兄弟弟子による悲痛な決着だった。
「壱ノ型」しか使えない善逸と、それ以外の型全てを習得しながら鬼に堕ちた獪岳。
雷の呼吸の継承者を巡る、光と影の対決だ。
そして、クライマックス。
善逸が独自に編み出した、雷の呼吸・漆ノ型「火雷神(ほのいかづちのかみ)」。
黄金の龍がスクリーンを切り裂き、獪岳を貫くその一瞬の閃光は、本作屈指のカタルシスに満ちていた。
これは、己の過去と弱さに、善逸が自らの手でつけた「けじめ」の物語であり、見事な勝利であった。
第三の死闘:【終焉】竈門炭治郎&冨岡義勇 vs 上弦の参・猗窩座
そして、本作最大のクライマックスが、この因縁の対決の完全決着だ。
義勇が痣を発現させ、炭治郎が「透き通る世界」に至ることで、二人の刃はついに猗窩座の頸を捉える。
しかし、猗窩座は頸を斬られてもなお、闘争本能だけで動き続け、二人を追い詰める。
誰もが絶望しかけたその時、猗窩座の脳裏に浮かんだのは、人間時代の記憶。
愛する許嫁・恋雪と、師である慶蔵の姿だった。
彼は自らの拳で己の身体を貫き、これ以上の醜態を晒すことを拒絶。
壮絶な自決を遂げ、塵となって消えていった。
これは、鬼殺隊にとって大きな勝利であると同時に、一人の男の悲しい愛の物語の終焉でもあった。
5.劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来の補足情報
驚異的な興行成績と社会的影響
公開初日から『無限列車編』に迫る記録を叩き出し、興行収入100億円最速到達記録を更新し、さらに、200億円最速到達記録も更新した。
僅か23日での出来事である。
改めて『鬼滅の刃』が日本のエンターテインメントの中心にあることを証明した。
6.劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来の感想
勝利と敗北を同時に味わう、魂を削る映画体験
劇場を出た後、残ったのは爽快感ではない。
ずっしりと重い、しかし不思議と胸を打つ感動だった。
本作は、勝利の物語ではない。
次へ進むために、過去に「けじめ」をつけ、未来へ「覚悟」を託す物語だ。
映画は、善逸が兄弟子・獪岳を討つ「決着」の物語、炭治郎と義勇が猗窩座を滅する「終焉」の物語、そしてしのぶが童磨に敗れる「悲壮」の物語を、見事に描き切った。
そして、本作の物語をここまで豊かにしているのは、対峙する鬼たちのあまりにも対照的な魅力だろう。
特筆すべきは上弦の弐・童磨の性格だ。
演じる宮野真守氏の言動の軽薄な表現が完璧で、その底知れぬ狂気を際立たせる。
彼がしのぶを吸収し「可哀想に」と涙を流す場面は、本気で彼女を「救済」していると信じ込む、感情なき怪物の歪んだ純粋さが描かれており、本当にいいやつなのではと錯覚させるほど恐ろしく、そして魅力的だった。
その一方で、獪岳は悪者過ぎて一切の感情移入ができなかった。
猗窩座が悲劇の果てに散ったのとは対照的に、彼には同情の余地がなく、その人間的な卑しさが善逸の覚悟をより一層輝かせる、完璧な悪役として描かれていた。
この魅力的な悪役たちがいるからこそ、鬼殺隊の戦いは輝く。
勝利のカタルシスと、目の前で仲間が為すすべなく散っていく絶望を、ほぼ同時に味わわされる。
この感情のジェットコースターこそが、本作の真骨頂だろう。
特に、胡蝶しのぶの死の描き方だ。
策も及ばず、ただただ強大な力の前に吸収されていく姿は、圧倒的な無力感を観客に与える。
しかし、その瞳に宿る意志の光は、決して消えてはいなかった。
彼女が何を託し、カナヲが何を繋ぐのか。
その答えを知っているからこそ、この悲劇的な結末は、次章への揺るぎない希望の布石として我々の胸に刻まれるのだ。
まとめ
本記事では、劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来がもたらした衝撃を、一人の観客としてレビュー・解説してきた。
本作は、ファンであれば必見であることは言うまでもない。
だが、これはもはやファンだけのものではない。
日本の映像史が到達した一つの極点として、全ての人に目撃してほしい作品だ。
鬼殺隊の永きにわたる悲願と、鬼たちの千年続く孤独が交錯する最終決戦。
一つの大きな勝利と、一つの大きな犠牲を目撃した我々は、ただ次を待つことしかできない。
夜明けは、まだ、あまりにも遠い。